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徳島地方裁判所 昭和52年(行ウ)11号 判決

原告 船城武芳

被告 徳島県公安委員会

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対して昭和四九年八月二一日した自動車運転免許停止処分は無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は自動車運転免許を有していたところ、被告は原告に対して昭和四九年八月二一日に六〇日間の免許停止処分(以下本件停止処分という。)をした。その理由とするところは、原告が昭和四九年六月二二日に起こした交通事故(以下本件事故という。)に関して原告が歩行者側方安全間隔不保持(反則点数二点)及び右違反行為に起因する重傷事故(反則点数九点)という二つの違反行為をしたとして、前記の反則点数をそれぞれ認定し、その結果法定の反則累積点数を超過したというにある。

2  しかしながら、本件事故の態様は左記のとおりである。

原告は昭和四九年六月二二日午前六時四〇分頃、兵庫県三原郡三原町八木笑原野原二一八番地先の県道西淡三原線の道路上を時速約一二キロメートルで自車を進行させ、歩行者鳥井花子の動靜に注意しつつ同人を追い越そうとしていたところ、同人が右に体の向きを変え道路を横断するような様子を示し、同人が車に接触しそうに見えたので、原告はブレーキをかけ自車を停止させたところ、鳥井花子は停止した車に自ら接触し、よろめきながら道路脇の側溝へ落ち、全治六日間の負傷をしたものである。

3  右のとおり、本件事故は鳥井花子の過失により発生したものであつて、原告の過失による歩行者の側方安全間隔の不保持によるものでなく、しかも被害者の負傷の程度も全治六日間にすぎず重傷事故ではない。

それゆえ、本件停止処分は重大かつ明白な瑕疵が存し無効である。

4  そして無効な本件停止処分が存在することにより原告の自動車運転免許について種々の不利益が存するのでこれを排除する必要がある。

よつて本件停止処分の無効の確認を求める。

二  被告の本案前の主張

1  行政処分の無効確認の訴えは、当該処分が無効で、かつ、当該処分が存在することにより原告の法的地位に不安が存する場合、原告の右不安を排除するために認められるものであり、それゆえ右不安の排除が原告にとつてもはや不可能または無意味になつたときは、その訴えの利益は失われるものである。

2  原告は本件停止処分後である昭和四九年一一月九日に自動車運転免許の取消処分を受けたのでこれに対し右運転免許取消処分の取消しの訴えを提起したが、第一審(徳島地裁昭和五〇年(行ウ)第三号、昭和五一年一月二八日判決)で請求棄却、第二審(高松高裁昭和五一年(行コ)第一号、昭和五一年六月一七日判決)で控訴棄却、上告審(最高裁昭和五一年(行ツ)第七九号、昭和五一年一二月一四日第三小法廷判決)で上告棄却の各判決があつたものである。

3  それゆえ、原告は本件訴えによつても、その法律上の地位の回復はもはや不可能であり、本件処分の無効確認を求める訴えの利益はない。

三  被告の本案前の主張に対する原告の認否

1、3項は争う。2項は認める。なお、原告が前記運転免許取消処分の取消訴訟において主張した違法事由は、本訴で主張する無効事由と同一である。

理由

一  左記の事実は当事者間に争いがないか、あるいは当裁判所に顕著な事実である。

1  本件停止処分は、原告の昭和四八年四月二〇日の指定通行区分違反(反則点数一点、以下点数のみで記す。)、同年一〇月三〇日の速度超過二〇キロメートル未満(一点)、および本件事故に関する歩行者側方安全間隔不保持(二点)と右違反に起因し、専ら原告の不注意にもとづく重傷事故(九点)を理由としてなされた。

2  その後、原告は右停止期間中である昭和四九年九月一二日に無免許運転(八点)を犯し、昭和四九年一一月一九日被告により、反則累積点数が二一点になつたとして免許取消処分(欠格期間一年間、以下単に本件後行取消処分という。)を受けた。

3  原告は、本件後行取消処分の取消しを求める訴えを提起し、本件事故についての原告の過失及び被害者の負傷の程度について被告に事実誤認があることを主張したが、昭和五一年一月二八日徳島地裁昭和五〇年(行ウ)第三号判決で請求棄却となり、右判決は原告の控訴、上告を経て、昭和五一年一二月一四日に確定した(控訴審、上告審の事件番号等は被告主張のとおりである。以下、この訴訟を前訴と称する。)。

4  本件訴えは、本件後行取消処分に先立つ本件停止処分の無効確認を求めるものであるが、その無効事由として主張するところは、右取消訴訟の第一審判決事実摘示欄の原告の主張をほぼその通りに引き写した同内容のものである。

二  ところで、抗告訴訟の審理の対象は、当該行政処分の適法性全般であつて、これについての請求棄却の確定判決は、当事者間において該処分の適法性を積極的に確定する効力を有するというべきであるから、一たん敗訴した当事者はもはや無効確認訴訟を提起して該処分の適法性を争うことは許されないと解されるところ、前記一の事実によると、当事者間において前訴により本件後行取消処分の適法性が確定され、原告はもはや右取消処分を覆す法的手段を有しないことが明らかであつて、原告が本件停止処分当時有していた各種免許資格の削奪の効果は不動のものである、と同時に、同取消処分による欠格期間もすでに経過した現在においては、原告が再び運転免許を得るについて、同取消処分のあつたことはもちろん本件停止処分のあつたことは何ら障害事由とはならない(道路交通法九六条、八八条、九〇条)ばかりか、原告が免許を再取得した場合において万一違反行為があつて再免許の停止、取消が問題となるときでも、旧免許にかかる停止、取消処分の有無は法律上不利益に作用することはない(同法一〇三条、同法施行令三八条)から、再免許の取得及びその存続について、本件停止処分のあつたことによつて原告が法律上不利益を被ることは全くないといわなければならない。

そして、右に述べたところを前提に、本件停止処分の無効確認を求める訴えの利益(行政事件訴訟法三六条前段の「法律上の利益」)の有無について考えると、原告が本件停止処分によつて現在受けている不利益として考えられるものとしては、わずかに、本件停止処分を受けたという原告の名誉、信用等の社会的・人格的利益への影響があるにとどまるものであるところ、本件停止処分と後行取消処分の時間的接着性等に照らすと、右の不利益は、後行の重大で抜本的な免許の取消処分の存在による社会的・人格的利益の侵害による不利益に包摂される微小なものであり、換言すれば取消処分に加えて本件停止処分が存在することによつては、右不利益はほとんど加重されていないものとみるのが相当であり、しかも前叙のとおり後行取消処分の効果は不動のものであつて、該処分による不利益は原告が今後とも甘受すべきものである以上、原告が本件停止処分によつて受ける右程度の不利益をもつて、法律上の不利益とし、本件訴えの利益ありとは到底なしえないものといわねばならない。

三  よつて、本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法九条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岩佐善巳 安廣文夫 新井慶有)

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